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データインテグリティとは?基本原則や対応のポイントを解説

製薬・食品・化学業界を中心に、「データインテグリティ(DI)」への対応が重要視されています。しかし、「具体的に何をすればよいのか分からない」「ALCOA原則との関係が理解できていない」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、データインテグリティの基本概念や注目される背景、ALCOA+原則の内容をわかりやすく解説するとともに、実務で押さえておきたい対応ポイントや具体的な強化方法についても紹介します。DI対応を進めたい方や、品質管理体制の見直しを検討している方はぜひ参考にしてください。
データインテグリティとは
データインテグリティ(Data Integrity)とは、データの「完全性」を意味する概念であり、データがそのライフサイクル全体を通じて、一貫性・正確性・信頼性を保っている状態を指します。
ここでいうライフサイクルとは、データの作成、記録、処理、保存、さらには廃棄に至るまでの一連のプロセスを含みます。つまり、単に「正しいデータであること」だけではなく、「どのように作られ、どのように管理されているか」まで含めて評価される点が特徴です。
例えば、正しい数値が記録されていたとしても、その記録が後から改ざん可能な状態であったり、誰が入力したか不明確であったりする場合、そのデータは信頼できるとは言えません。データインテグリティは、このようなリスクを排除し、「信頼できる証拠としてのデータ」を確保するための考え方です。
また、対象となるデータは電子データに限りません。紙の記録も含め、すべてのデータが対象となります。例えば手書き記録であっても、記入日時や記入者が明確でなければ、データインテグリティが確保されているとは言えません。
このようにデータインテグリティは、単なるデータ管理のルールではなく、品質保証やコンプライアンスの基盤となる重要な概念です。
データインテグリティが注目される背景
近年、製薬・食品・化学業界などを中心に、データインテグリティ(DI)への関心が急速に高まっています。その背景には、規制強化やデジタル化の進展といった複数の要因が存在します。
まず大きな要因として挙げられるのが、規制当局による査察の強化です。米国のFDA(食品医薬品局)や日本の厚生労働省・PMDA(医薬品医療機器総合機構)などは、データの改ざんや不適切な管理に対して厳しい姿勢を取っています。過去にはデータ改ざんが原因で製品回収や業務停止に至った事例もあり、企業にとってDI対応は避けて通れない課題となっています。
次に、デジタル化の進展も大きな背景です。製造現場や試験業務において電子記録の活用が進む一方で、データの不正な書き換えや削除といったリスクも高まっています。そのため、システム面での制御や運用ルールの整備が不可欠です。
さらに、過去に発生した不正やミスの影響も無視できません。意図的なデータ操作だけでなく、記録漏れや転記ミスといったヒューマンエラーも品質問題の原因となることがありました。こうした経験を踏まえ、業界全体でデータの信頼性を確保するための取り組みが進められています。
このように、規制・技術・運用のすべての観点から、データインテグリティは重要性を増しており、企業にとって必須の対応事項となっています。
データインテグリティの基本原則「ALCOA原則」
データインテグリティを確保するための基本的な考え方として広く知られているのが「ALCOA原則」です。これは、データが満たすべき要件を体系的に整理したものであり、製薬業界をはじめとする規制産業において、データ管理の基準として広く採用されています。
ALCOAは5つの英単語の頭文字を取ったもので、「帰属性」「判読性」「同時性」「原本性」「正確性」という要素から構成されています。近年ではデータ管理の高度化に伴い、ALCOAに追加要素を加えた「ALCOA+(プラス)」の考え方も一般的になっています。ALCOA+では、従来の5要素に加え、「Complete:完全性」「Consistent:一貫性」「Enduring:永続性」「Available:入手可能性」が重視されます。
なお、実務上は変更履歴や監査証跡の観点から「Traceable:追跡可能性」も重要視されるため、本記事ではALCOA+の9項目に加え、関連する重要要素としてTraceableについても解説します。
- Attributable:帰属性
- Legible:判読性
- Contemporaneous:同時性
- Original:原本性
- Accurate:正確性
- Complete:完全性
- Consistent:一貫性
- Enduring:永続性
- Available:入手可能性
- Traceable:追跡可能性
Attributable:帰属性
データは「誰が作成し、誰が変更したか」が明確に識別できる必要があります。記録者や操作担当者が特定できることで、責任の所在が明確になり、不正行為や不適切な操作の抑止につながります。
電子システムではユーザーIDや電子署名によって管理されることが一般的ですが、共有アカウントの使用や代理入力などは帰属性を損なう要因となるため注意が必要です。また、紙の記録においても記名や押印、日付の記載が求められます。
さらに、誰がどの操作を行ったかを追跡できる仕組みを整備することで、監査や査察時の説明責任を果たしやすくなります。
Legible:判読性
データは誰が見ても読み取れる状態である必要があります。手書きの場合は判読可能な文字で記録することが求められ、略語や曖昧な表現の使用は避けるべきです。
特に紙の記録では、筆跡の個人差や経年劣化によって判読が困難になるケースもあるため、記載ルールの統一や適切な保管が重要となります。電子データにおいても、フォーマットの統一や入力規則の設定により、誰が見ても理解できる状態を維持する必要があります。
判読性が確保されていないデータは、後からの検証や再利用が困難になるため、品質保証の観点でも大きなリスクです。
Contemporaneous:同時性
データは作業と同時、または可能な限り速やかに記録される必要があります。後からまとめて記録する方法では、記憶違いや意図的な改ざんのリスクが高まるため、適切とは言えません。
例えば、試験結果を一時的にメモに書き留め、後から正式な記録に転記するような運用は、同時性を損なう典型的なケースです。このような二重記録はミスの原因にもなります。
そのため、作業と記録を一体化する仕組み、例えば機器からの自動データ取得やリアルタイム入力の導入が重要です。
Original:原本性
データは原本、または原本と同等の信頼性を持つ状態で保持される必要があります。コピーや転記によるデータは、誤りや改ざんが入り込む可能性があるため、原データの保存が重要です。
紙の記録では、原本の保管や訂正履歴の明確化が求められます。一方、電子データでは元データの改ざん防止や履歴管理(バージョン管理)が重要となります。
特に、分析機器から出力される生データ(raw data)は原本として扱われるため、その保存やアクセス管理には厳格なルールが必要です。
Accurate:正確性
データは事実に基づき、誤りがない状態であることが求められます。測定値や計算結果の正確性はもちろん、入力ミスや単位の誤り、計算ロジックの不備なども排除する必要があります。
そのためには、入力チェック機能や自動計算機能の導入、ダブルチェック体制の構築などが有効です。また、測定機器の校正や定期点検を行うことで、測定値そのものの信頼性を確保することも重要です。
さらに、正確性は単なる結果の正しさだけでなく、適切な手順や条件のもとで取得されたデータであることも含まれます。つまり、「どのように得られたデータか」も含めて正確性が評価される点に注意が必要です。
Complete:完全性
必要なデータが欠落することなく、すべて記録されている状態が求められます。良好な結果だけでなく、失敗した試験や再試験の記録も含めて、すべてのデータを残すことが重要です。
一部のデータが意図的または無意識に除外されると、全体としての信頼性が損なわれる可能性があります。そのため、記録の抜け漏れを防ぐためのチェック体制や、システムによる入力必須項目の設定などが有効です。
Consistent:一貫性
データの記録方法や時系列に整合性があることが求められます。例えば、記録の順序が前後していたり、フォーマットが統一されていなかったりすると、データの信頼性に疑問が生じます。
また、時刻のズレや異なるタイムゾーンの混在なども、一貫性を損なう要因となります。これを防ぐためには、記録ルールの統一やシステムによる自動時刻管理などが重要です。
Enduring:永続性
データは長期間にわたり保存され、必要な期間中は劣化せずに保持される必要があります。紙媒体では退色や破損、電子データでは消失やフォーマットの非互換といったリスクがあります。
そのため、適切な保管環境の整備やバックアップ体制の構築が不可欠です。特に規制業界では、一定期間の保存が義務付けられているため、長期的な視点でのデータ管理が求められます。
Available:入手可能性
データは必要なときに迅速にアクセスできる状態であることが求められます。査察や監査の際に、必要なデータをすぐに提示できない場合、管理体制に問題があると判断される可能性があります。
そのため、検索性の高いデータ管理や、アクセス権限を適切に設定したシステムの導入が重要です。単に保存するだけでなく、「使える状態で管理する」ことがポイントとなります。
Traceable:追跡可能性
データの作成から変更、削除に至るまでの履歴を追跡できることが必要です。これにより、データの信頼性を客観的に証明することが可能になります。
電子システムではオーディットトレイル機能により、「誰が・いつ・どのデータを変更したか」を自動的に記録できます。また、変更理由の入力を必須化する運用やシステム設定を行うことで、「なぜ変更したか」も追跡可能になります。この仕組みによって、不正やミスの早期発見と是正が可能です。
追跡可能性は、データインテグリティを支える中核的な要素であり、監査対応においても極めて重要な役割を果たします。
データインテグリティへの対応のポイント
データインテグリティ(DI)を確保するためには、単にシステムを導入するだけでは不十分です。組織全体としての考え方や運用ルール、教育体制を含めた総合的な取り組みが求められます。ここでは、実務で押さえておくべき重要な対応ポイントとして、以下の3点について解説します。
- 経営層の積極的な関与
- 企業風土づくり
- 厳格なアクセス管理
経営層の積極的な関与
DI対応を成功させるためには、現場任せにせず、経営層が主体的に関与することが重要です。データインテグリティは単なる現場オペレーションではなく、企業の品質保証やコンプライアンスに直結するテーマであるためです。
経営層が方針としてDIの重要性を明確に示し、必要な投資や人材配置を行うことで、組織全体に取り組みが浸透しやすくなります。また、監査や査察への対応においても、経営レベルでの理解と説明が求められるケースが多いため、トップダウンでの推進が不可欠です。
企業風土づくり
DIはシステムだけで担保できるものではなく、現場の意識や行動に大きく依存します。そのため、正しい記録を行うことが当たり前となる企業文化の醸成が重要です。
例えば、「後でまとめて記録する」「都合の悪いデータは残さない」といった慣習が残っている場合、どれだけ高度なシステムを導入しても意味がありません。こうしたリスクを防ぐためには、教育訓練を通じてDIの重要性を理解させるとともに、適切な行動を評価する仕組みづくりが求められます。
また、ミスを隠すのではなく共有し改善につなげる文化も重要です。心理的安全性の確保もDI対応の重要な要素といえます。
厳格なアクセス管理
データの不正操作や誤操作を防ぐためには、適切なアクセス権限の設定が不可欠です。誰がどのデータにアクセスできるのか、編集や削除が可能なのかといった権限を明確に定義し、最小権限の原則に基づいて管理する必要があります。
また、共有アカウントの使用は帰属性を損なうため避けるべきです。個人ごとのID管理を徹底し、操作履歴が追跡できる状態を維持することが重要です。
さらに、パスワード管理や定期的な権限見直しなど、運用面でのルール整備も併せて実施することで、より強固な管理体制を構築できます。
データインテグリティを強化する方法
DI対応を実務レベルで実現するためには、具体的な施策の導入が必要です。ここでは代表的な強化方法を紹介します。
- オーディットトレイルの活用
- ペーパーレス化の推進
- バックアップとアーカイブの整備
オーディットトレイルの活用
オーディットトレイル(監査証跡)は、データの変更履歴を自動的に記録する仕組みです。「誰が・いつ・どのデータを・なぜ変更したか」を追跡できるため、不正やミスの抑止に大きな効果があります。
特に、手作業による記録やExcel管理に依存した運用では、ヒューマンエラーやデータ改ざんリスクを低減することが難しく、ALCOA+原則に沿ったデータ管理体制の構築に課題が生じやすくなります。
ペーパーレス化の推進
紙ベースの記録は、転記ミスや紛失、改ざんのリスクが高いため、可能な限り電子化を進めることが望まれます。分析機器から直接データを取得し、システム上で管理することで、転記ミスや記録遅れのリスクを低減し、「原本性」「正確性」「同時性」を確保しやすくなります。
また、ペーパーレス化は業務効率の向上にもつながるため、DI対応と効率化を同時に実現できる施策です。
バックアップとアーカイブの整備
データの消失や破損を防ぐためには、定期的なバックアップと長期保存の仕組みが不可欠です。特に規制業界では、一定期間のデータ保存が義務付けられているため、アーカイブ体制の整備が重要となります。
また、単に保存するだけでなく、必要なときに迅速にアクセスできる状態を維持することも重要です。
データインテグリティ対応におすすめの西川計測のソリューション
データインテグリティ(DI)対応を確実かつ効率的に進めるためには、運用ルールの整備だけでなく、それを支えるITシステムの導入が不可欠です。特に、手作業による記録やExcel管理に依存した運用では、ヒューマンエラーやデータ改ざんリスクを十分に低減・管理することは難しく、ALCOA+原則を満たすデータ管理体制の構築には限界があります。
こうした課題を解決する手段として有効なのが、LIMS(ラボ情報管理システム)や電子実験ノート(ELN)の導入です。
西川計測では、データインテグリティ対応を支援するソリューションとして、LIMS「WeLS」と電子実験ノート「NEXS」を提供しています。両者は役割が異なりながらも、連携することでより強固なDI対応を実現できます。
LIMS「WeLS」の特徴
WeLSは、試験・分析業務に特化したLIMSであり、試験依頼から結果承認までのワークフローを一元管理できます。これにより、業務の標準化や進捗の可視化を実現し、記録の抜け漏れや手順逸脱を防止します。
また、分析機器との連携によるデータ自動取得により、手入力や転記に伴うミスを低減し、「同時性」や「正確性」を確保しやすくなります。さらに、オーディットトレイルや電子署名機能を備えており、「帰属性」や「追跡可能性」を確保するための仕組みづくりを支援します。なお、規制要件への適合には、システム機能だけでなく、導入時の設定、CSV、SOP整備、権限管理、教育訓練などを含めた運用設計が重要です。
※なお、本システムのご導入にあたり、医薬品医療機器法等に基づくコンピュータシステムバリデーション(CSV)の実施・文書作成支援につきましては、お客様ご自身でのご対応、または別途専門会社様へのご依頼が必要となります。
WeLSに関する詳しい情報はこちら
電子実験ノート「NEXS」の特徴
NEXSは、実験記録をデジタル化し一元管理するELNです。テキストや画像、ファイルを統合的に記録でき、実験情報の可視化と共有を促進します。
タイムスタンプや電子署名、変更履歴の保存により、「同時性」「原本性」「一貫性」を確保するための運用を支援できる点が特長です。検索機能も充実しており、過去データの活用やナレッジ共有にも貢献します。
NEXSに関する詳しい情報はこちら
WeLSとNEXSの連携による価値
WeLSとNEXSを連携することで、試験データと実験記録を一貫して管理でき、トレーサビリティの強化につながります。研究開発から品質試験までのデータを統合することで、部門間の連携やデータ活用もスムーズになります。
まとめ
本記事では、データインテグリティ(DI)の基本概念や注目される背景、ALCOA+原則、対応のポイントについて解説しました。
データインテグリティは、単にデータが正しいことを意味するだけでなく、そのデータが適切な手順で作成・管理され、改ざんや欠落がない状態を維持することを指します。特に規制業界においては、製品の品質や患者の安全に直結する重要な要素であり、継続的な対応が求められます。
DI対応を実現するためには、ALCOA+原則に基づいた業務プロセスの見直しと、ヒューマンエラーを低減・検知・是正する仕組みづくりが不可欠です。また、LIMSや電子実験ノートといったシステムを活用することで、データの信頼性確保と業務効率化を同時に実現できます。

